当時の秘密文書を
A読む
B読まない

今これを読んでいるあなたが誰なのか、わ
たしには分からない。子供なのか、大人な
のか、男なのか、女なのか……。このゲーム
の購買層を考えるなら、高校生くらいの男の
子というのが可能性としては高いのかもし
れない。

いずれにしても、純粋にゲームを楽しもう
としてこのソフトを買ったごく普通の人であ
って、”彼ら”の仲間などでないことを痛切に
願う。

あなたが誰なのか、わたしには分からない
わたしはさっきそう書いた。しかし、あなた
の方は、わたしのことを知っているはずだ。
少なくともその名前を、このゲームのパッケ
ージなり、スタッフロールなりで見かけてい
るに違いない。

わたしの名前は我孫子武丸。いや、そうい
う名前で知られている人物の影にいる、本
当の作者。それがわたしだ。パッケージや
マニュアルに顔写真が出ているかもしれな
いが、それはわたしではない。わたしの名前
をかたっている"彼ら"の仲間だ。

わたしはこの『かまいたちの夜』のストーリ
ーのほとんどすべてをチュンソフトの社内の
一室で書かされている。そしてわたしは今、
仕事をしているふりをし、"彼ら"の目を盗み
ながらこれを書いている。そう、"彼ら"とは
すなわちチュンソフトの社員達のことだ。

正直に言うと、わたしも始めは"彼ら"の仲間、
チュンソフトの社員だったのだ。しかし、この
『かまいたちの夜』の制作に参加し、プロジ
ェクトが進むにつれ、この会社の真の姿とそ
の恐るべき陰謀に気がついたのだ。

わたしはもちろん逃げだそうとしたが、あと
一歩のところで"彼ら"に取り押さえられて
しまった。それ以来ずっとこの部屋に監禁
され、強制的に仕事をさせられている。"彼
ら"にとって都合のいいことに、わたしには
身寄りもなく、社外の友人も少なかったから、
わたしの行方を探してくれる人もいないだ
ろう。

この仕事が終わると同時に、わたしは殺さ
れるだろう。だから多分、あなたがこれを
読んでいる今、わたしはもう"彼ら"の手によっ
て抹殺されていることと思う。ここから何度
も逃げ出そうとしたが、そのたびにつかまり、
思い出すのもおぞましい数々の拷問を受け
た。

わたしはもはや生き延びる希望など抱いて
はいないが、"彼ら"の陰謀を世間に伝え、
阻止してもらうため、これを書いている。普
通のゲームの背後に、暗号を解かなけれ
ば見つけることのできないよう、このメッセ
ージを隠しておく……そうすれば"彼ら"の
目に触れずに、外の人間に情報を伝えるこ
とができると考えたのだ。

マスターのROMにこのメッセージを仕込
むことができればいいのだが、わたしの立
場ではそれは不可能だ。一ケース分、ある
いは二ケース分をすり替えるのがせいぜい
だ。

その何十本かのうち、果たしてこのメッセー
ジにたどり着ける人間がいるのかどうか、そ
してたとえこれを読んだとしても、信じても
らえるのかどうか……わたしにはまったく分
からない。そしてまた、出荷する前にチェッ
クを受け、"彼ら"によって破棄されてしまう
ことがないという保証もない。

……あれこれと心配するのはよそう。誰か
善良な人間がこれを読んでくれていること
を信じ、わたしはこれを書き続けることにす
る。

あなたは多分どこかで、サブリミナル知覚と
いう言葉を耳にしたことがあるだろう。気
がつかない程度の刺激……潜在知覚とも
呼ばれているものだ。聞こえないほど小さ
な音、認識できないほど短い時間だけ映し
だされる画像……そういった知覚できない
刺激が、潜在意識に影響を及ぼす。

"彼ら"はこのサブリミナル知覚をゲームソ
フトにおいて実験しようと試みた。その最初
が『弟切草』というソフトだった。埋めこまれ
たメッセージは比較的他愛のないものだっ
た。「チュンソフトのソフトは面白い」というも
のだ。

メッセージを埋めこんだものとそうでないソ
フトを別々の地方に出荷し、次回作の売れ
行きを比べて結果を探ろうというものだっ
た。そして『トルネコの大冒険』というソフト
によって実験の効果は確かめられた。メッ
セージを埋めこんだソフトを出荷した地域
の売れ行きはめざましいものがあったのだ。

この段階でも、商業モラル上若干問題があ
ることはお分かりだろうが、"彼ら"の真の狙
いはビジネスの成功などというささやかな
ものではなかった。やがては日本をになう
ことになる若者達を子供のうちに洗脳し、熱
狂的なチュンソフトの支持者にすること。

このソフトをプレイした子供達が大人にな
る頃には、チュンソフトは単なるゲームソフ
ト会社ではなく、宗教法人、政治結社、多国
籍企業の複合体となっているだろう。その
時、洗脳された若者達は中村光一を神と崇
め、"チュンソフ党"に投票し、チュン食品の
インスタント・フードを食べながら、廃人のよ
うになってチュンソフトのゲームをプレイし
続けていることだろう。

それこそが"彼ら"の目的なのだ。経済、政
治、信仰のすべてにわたって日本全体を支
配すること。笑い話のように聞こえることは
承知している。しかしこれは本当のことなの
だ。

現に、このソフトをすでに何度かプレイして
いるはずのあなたは、チュンソフトに対して
奇妙な信頼感を覚えているはずだ。十回
以内であれば、まだ洗脳されきってはいな
い。二十回、三十回目でこれを読んでいるの
だとすると、おそらく何を言っても信じては
もらえないことだろう。

しかし、これは真実なのだ。誰か"彼ら"の
陰謀を暴いてほしい。簡単なことだ。わた
しがこれから教える電話番号に、電話を一
本かけるだけでいいのだから。わたしが全
面的に信頼できる唯一の友人の電話番号
だ。彼にすべてを話してくれ。それだけで
いい。

危険なことは何もない。逆に、彼に伝えて
しまうことであなたの危険度は下がるのだ。

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